「RoHS」と同様に「Pbフリー」に対するお問い合わせも、お客様からしばしば頂く。「Pb」とは元素記号で、元素名は「鉛」である。鉛は昔なつかしのベーゴマや釣りに使うおもり。ステンドガラスを接着するのに使う”はんだ”にも使われていた。その昔、人類は鉛で羊皮紙に絵や文字を書きつけていた。読んで字のごとく、鉛筆の起源である。
『「鉛」は5000年前から使用されており、古代エジプトの遺跡から鉛のメダルが発見されている。また、古くは古代ローマの水道管の一部に上水道の接続技術として利用されていたとも言われ、”はんだ”とほぼ同じ組成(すず63% / 鉛37%の合金)であった。太古から知られていた古代7金属の1つが「鉛」で人類との関わりが深い金属でもある。
「鉛」は軟らかく、加工が容易であり、ほかの金属と合金を作りやすいことから広い範囲で用いられてきた。電子部品の接続に用いられている”はんだ”材料は、従来すず(Sn)と鉛(Pb)を混合した合金がほぼ100%を占めており、それらを用いた”はんだ”接続は電子産業を支えてきた基本技術でもある。その5000年の歴史を有する「鉛」を”はんだ”から排除しようとする動きが、1990年代の後半から始まった。』 (一問一答形式でわかりやすい 環境規制Q&A 555」より)
鉛フリー問題を調べていて、どこかで聞いた話だなと気にかかっていた。そうだ、建築業界におけるこの問題だ。
『アスベストは、耐熱性、絶縁性、保温性に優れ、断熱材、絶縁材、ブレーキライニング材などに古くから用いられ、「奇跡の鉱物」と重宝されてきた。しかし、高濃度長期間暴露による健康被害リスクが明らかになったことで、アスベスト含有製品の生産や建設作業(アスベストの吹きつけ)に携わっていた従事作業者の健康被害が問題となり、「静かな時限爆弾」と呼ばれるようになった。』
(ウィキペディアより)
石綿(アスベスト)もまた、人類とは長い付き合いである。古代エジプトではミイラを包み、古代ローマではランプの芯として使われていたとか。ところが現代では健康被害問題をきっかけとして、すっかり悪者になってしまった。法律が整備され、アスベスト製品は、ほぼ全廃された。しかし、『脱アスベストとして開発された代替製品についても、発癌性の危険を指摘する声がある。鉱物性繊維は、その成分には関係なく、(1)繊維が細いこと、(2)肺胞内マクロファージの貪食作用に耐えるという2点に合致することで発癌性が発揮される。また、有害なアスベストを無害化する技術研究も盛んに行われている。』 (ウィキペディアより) 代替製品として登場した人造の鉱物繊維は、アスベストとは明確に異なる材質だとしても、安全性が確保されたとは言い難いようだが、その状態で大量に生産した結果、生じるリスクについても検証されているのであろうか。
一方、鉛もまた悪者だ。『従来、電子回路などの基板に電子部品を搭載するためには鉛と錫の合金である“はんだ”(いわゆる含鉛”はんだ”)が大量に使用されていた。しかし、鉛は人体に有害であり、また廃棄物として自然環境に対する悪影響も懸念されたため、鉛を含まない鉛フリー”はんだ”の開発、普及が進め られている。しかし、鉛フリー”はんだ”と含鉛”はんだ”では様々な特性の違いがあり、完全に置き換えるまでには至っていない。また現時点では鉛フリー” はんだ”の人間やその他の生物に対する影響が深く評価されているわけではない』(ウィキペディアより)
鉛と石綿、どちらも安全に管理が出来れば、こんなに使いやすく、有益なものはない。オリエントの時代より人類が使い続けてきたことこそが、その証明だ。代替物質の安全性の評価も十分でなく、価格や資源量も妥当とは言えないのならば、現状において本質的な解決はなされていないと言わざるを得ない。それぞれの業界において、大きな課題として内在しているわけである。そして人類は、十分な安全を手に入れたわけでもないのに、ふたつの宝物を手放そうとしている。
『鉛は量産金属(Common Metals)とも呼ばれ、鉄や銅と同様に産出量、生産量が多いものの、一方で消費量も多く、枯渇に至るまでの期間が意外と短く推定されているものもあることに注意を要する。わが国には優良な鉛鉱山が存在するが、生産は縮小され、鉱石の自給率は4%程度である。鉛の用途については、鉛蓄電池がほぼ70%を占めている。その中の90%以上が回収・再処理・再利用されており、鉛のリサイクル率は安定して高い値を示している。また、有害金属との認識から、今後はリサイクルしやすい形での利用が主になるであろう。』
(「環境大事典」 株式会社工業調査会 より)
「人類の文明の歴史は金属の利用の歴史でもあった。」といわれる。鉛も石綿も、「使い続ける」ことは本当にできないのか。より良き社会を目指して挑戦するべきベクトルは放棄の道だけなのか。日本の職人ならば、マネジメント能力の高い技術者ならば、豊かな社会を望む官僚ならば、今すぐにでもやれることは、多くあるのではないか。地球がくれた宝物と共に歩む道を再度、模索、検証する時がきたと確信する。
広報 小池 公彦
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