~共晶~価値観と言葉の変遷

TQ Colmn / 2015年03月

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「共晶」・・・あまり聞きなれない言葉なのではないでしょうか。日頃から電子部品に触れている同業の方でも、日常的に耳にする方は少ないかと思います。ネットで検索したところ、鉄鋼関連の用語として下記のように解説されていました。

[共晶とは]
『合金などが凝固するときの凝固形態、結晶組織の一つで、液相Lが分解して固相αと固相βを形成したときにできる結晶である。』(Wikipedia より)

ある程度は理解できましたが、正直なところ漠然としたイメージです。実際、我々が通常業務で使う用語としての”共晶”は「製品の製造過程において”共晶はんだ”を使用したもの」と理解しておけば十分なようです。”共晶はんだ”とは錫と鉛の合金(比率は錫63%、鉛37%が一般的)であり、成分として鉛を含んでいます。この”鉛を含む”という点を製品情報として お客様に伝えることができれば、まずは事足りるといったところでしょう。(鉛の有無の重要性についてはコラム『”共晶はんだ”と”鉛フリーはんだ”』をご参照下さい)
ただ、それだけではちょっと素っ気ないので、今日はこの「共晶はんだ」について勉強してみることにします。

 

[鉛の環境負荷]
前述のとおり、”共晶はんだ”には鉛が含まれています。現在、鉛は地球環境に対し深刻な有害物質として位置づけられており、その理由のひとつとして挙げられるのが土壌汚染です。不正廃棄された製品に含まれる鉛が酸性雨によって溶け出すことで土壌・地下水の汚染を引き起こします。また、人体に蓄積した際の毒性が指摘される点から、地域住民の安全な生活環境を脅かすと懸念されています。そうした中、鉛に対する法規制の強化や、現代の日本企業の倫理観などの後押しを受け、工業製品内の鉛排除という気運の高まりと共に「”はんだ”の鉛フリー化」の技術は発展してきました。鉛フリーとされる”はんだ”は、スズ(Sn)が96.5%、銀(Ag)が3.0%、銅(Cu)が0.5%の元素比率にて構成される「Sn- Ag- Cu系」といわれるものがメジャーなようです。この意味では”鉛フリーはんだ”も”共晶はんだ”と定義されるのでしょうか?ちなみに、従来の鉛入り”はんだ”は、スズ(Sn)と鉛(Pb)の合金の「Sn-Pb”共晶はんだ”」と呼ばれています。 この”鉛フリーはんだ”を使った加工は従来よりも高度な技術を要求されるものの、環境への負荷を軽減することができるという点に価値を置き良い評価を与えることは、現代の社会的価値観にも合致していると言えます。しかし、実際には必ずしも環境負荷の低減に結びつくとは限らないとの見方もあり、その他にもコスト面などで課題を抱えています。

 

[”鉛フリーはんだ”使用のデメリット]
第一に、”Sn-Ag-Cu鉛フリーはんだ”は「製造段階において、従来よりもエネルギーの消費が大きい」という特徴があります。例えば、電力消費量の増加は”共晶はんだ”に比べて高融点での加工を要するために起こる問題です。電気代が余計にかかりますし、”はんだ”自体も高額です。また、電気を作るため化石燃料を燃焼することは、酸性雨発生メカニズムの原因のひとつとされ、先に述べた土壌汚染を促進することとなります。はんだ付け作業においても、一般的に従来品より高度な接続技術が必要である点や、高温処理が部品へのダメージを与えることから、経年劣化・ 接続信頼性といった面でマイナス評価を受けることもあります。また「鉛フリー化のために代替される元素あるいは化合物の毒性についての調査は十分に行われているか?」などの疑問点もあるため、鉛フリー であるから環境毒性が小さいと判断することは早計と言えるかも知れません。さらには、微量とはいえども”鉛フリーはんだ”にも鉛が含まれるのだから、程度の差こそあれ管理の必要はあるのでしょう。

 

[総括]
地球環境レベルでの保全対策において、その取り組みの有効性を正しく評価することは時間のかかることであり、複雑・複合的な課題を一度にすべて改善することは現実的とは言えません。
今回、学んだことからの私個人の感想としては、人体への有害性が指摘されている点から、人権的な問題を優先して考慮し、「工場などの現場で作業する人々 が (気化した鉛を吸い込むなどの)健康面における不安・ストレスから開放される」ということを鉛フリー化推進の第一歩と認識することで、その流れを指示して いきたいと考えています。

ところで、”鉛を含んだはんだ”の呼称、まだ憶えていますか?

“共晶はんだ”でしたね。今回、なじみの無い言葉との出会いを通して社会の価値観や時代の流れが言葉の隆盛と衰退に大きく作用すると改めて気付かされました。言葉というのはこんな風にして歳を重ね古くなっていくのかなと感じました。この共晶という言葉も、今後ますます耳慣れない言葉へとなっていくのかもしれませんね。

カスタマーサービス 山内 洋平





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