半導体デバイス・電子部品

DIFFUSIONを追いかけろ!

TQ Colmn / 2017年07月

DIFFUSION、おまえは誰だ




半導体業界の方で、“DIFFESE”という単語を見たことがない人はいないと思います。ちょいちょい見かけるDiffuse, Diffusion, Diffused。しかし意外と分かっていない。曖昧なイメージでとらえている。そんな方も多いと思います。
半導体の現品票に以下のような文言で使われていることが多いこの単語。
■ DIFFESED IN JAPAN
■ COUNTRY OF DIFFUSION TAIWAN
ほとんどの場合“ASSEMBLE”という単語と共に併記されていますよね。ってことは、どこぞかの工程を指しているのでしょうか?

その意味は?

“DIFFESE”英和辞書によると
■ 放散する ■ 広める ■ 普及させる ■ まき散らす ■ 満ちわたらせる ■ 拡散させる
例えば、“Country of Assembly China”「組立たのが中国」、“Country of Diffusion USA”「普及したのがアメリカ」と。なんか腑に落ちない?違和感ありませんか?

桜木町のバールで一人飲みながら悩んでいると顔見知りのハルとサーヤが入ってきた。丁度いい二人ともUS育ちだ。

「あのさ“Diffuse”ってなによ?普段使うの、こんな単語?」

「ディフューザーのことでしょ?うちのサロンでも使ってるよ。」っとサーヤ。確か彼女は、美容関係のお仕事だったような・・・。ますます分からん。

すると横からハルが「空調じゃね?そんな事より、ロゼもう一本飲んでいい?いいでしょ。」

解決どころか、どんどん深みにはまって行く。僕は“DIFFESE”を捕まえきれるのであろうか?不安になってきた。

ナショナル・セミコンダクターと東芝の現品票ラベル

 

半導体の製造工程は、とっても複雑


半導体はとても多くの工程を経て完成します。『シリコンウェーハ製造工程』や前工程と呼ばれる『回路設計』『フォトマスクの作成』『素子形成(ウェーハプロセス)工程』、後工程の『組立工程』『検査工程』など大きく分けても6以上の工程があり、細かく分類すれば50以上のプロセスを経て初めて完成される非常に複雑な部品です。その中で“Diffusion”とはどこを指すのか?とりあえず製造工程を見直してみることにしました。

前工程
■ 回路設計
どんな機能を持たすのか!いかにして効率のいい回路をつくるか?パターン設計をします。
■ フォイトマスクの製造
設計に合わせたフォトマスクを作ります。これを使ってシリコンウェーハに回路を焼き付けていきます。写真のネガフィルムのイメージです。
■ ウェーハの製造
基材となる、シリコンウエーハを製造します。インゴット(シリコンの棒)を引上げ、輪切り(ワイヤーソーにて切断)にして、平らに研磨(LAP/DSP)きれいにして、ウェーハプロセス工場へ出荷します。
■ ウェーハプロセス(素子構成)
シリコンウェーハに、回路を作っていきます。シリコンの上に層を作り、回路を形成していきます。「表面の酸化・拡散」「フォトレジスト塗布」「回路焼き付け」「エッチング」「素子形成」「研磨」「金属膜形成」などを数回行います。

後工程
■ 組立
回路が書かれた丸いウェーハを小さな四角に切断し、リード線を付けていきます。「ダイジング」「マウンティング」「ボンディング」「モールド」「トリム」「フォーム」など多くの工程を経ます。
■ 検査
温度や電圧、電気特性など細かな試験・検査を行っていきます。
■ マーキング
レーザーなどで、メーカ名やロゴや型番、ロット、原産地などを印字しています。

これでも相当ざっくりの説明です。やっぱり分からん。と工程表を眺めているとウェーハプロセスの中に「拡散」の2文字。辞書の中にも「拡散」の文字を発見。これだ!でも待てよ。こんなに多くの工程の中のピンポイントに照準合わせるか?この「拡散」の二文字が“Diffusion”の痕跡であることは間違いないだろう。では、誰が?いつ?なんのために“Diffusion”として使い始めたのか追いかけてみることにしました。

 

“DIFFUSION”を捕まえろ

グーグル先生に聞いても、答えは帰ってきません。無駄に一日を費やし、疲れ切った私は遂に奥の手にでます。特命捜査官としてShinyaとMariaを指名したのです。

Maria :「え?今日忙しいんですけど。Anna休みだし。」

Shinya :「午後から韓国のOhさんが来る予定ですよ。下島さんも打ち合わせ出席になってますよ。」と逃げる二人に飴を与えてみた。

Gen : 「打ち合わせ2時からだよね。ランチさ俺、とんかつ食べたいと思ってんだ。間に合えばの話だけど、関内の『丸和』付き合ってくれないかな?名店だよね。」

流石グルメの二人。一心不乱にキーボードを叩き始めた。2時間後の12:15。捜査官より第一報が入ります。見つけたのは、経済産業省のレポートの中に“DIFFUSION”の起源らしき痕跡。1989年2月に発行された欧州経済共同体(European Economic Community)の法令についてのレポート。

目を充血させたShinyaが「今から急げば、1時半には社に戻れます。関内に急ぎましょう。」

彼らの報告によると

  • 第一階層 EEC No. 288/89 Determining the Origin of Integrated Circuits
  • 第二階層 CHAPTER 9 RULES OF ORIGIN
  • 第三階層 PROBLEMS OF TRADE POLICIES AND MEASURES IN INDIVIDUAL COUNTRIES
  • 第四階層 (2) European Union
  • 第五階層 (b) Rules of Origin for Semiconductors

 

の冒頭に“The manufacture of semiconductors includes two processes diffusion and assembly.”と記載されています。そう、この法令で無理やり製造工程を真っ二つにぶった切ったのです。この経産省のレポートと「The economics of European Integration Limits and Prospects」を読み解いていくと、当時ヨーロッパで大きな野望が渦巻いたドラマが展開されたと推測されます。

 

DIFFUSION誕生のドラマ

それは、日の丸半導体が世界を席巻していた1980年代。ヨーロッパ某所。各国の通商代表が円卓を囲みました。




フランス代表 : 今後我々連合は拡大を続け、アメリカと肩を並べる経済圏を作らねばならん。そのためには、新たなエンジンが必要になってくる。これからは石炭や鉄鋼ではなく半導体の時代だ。しかし我々ヨーロピアンは、この分野でアメリカや日本に出遅れていないか?

イタリア代表 : 確かにそうだが半導体の工場はEEC域内にもたくさんある。

 

フランス代表 : 違うんだ!それは単なる半導体の組み立て工場だ。いわゆる後工程の単純な工場だよ。前工程のウェーハプロセスこそ、半導体の重要な要素が詰まった最も精密な工程だ。もしウェーハプロセス工場を誘致する事ができれば、海外からの莫大な投資と新たな雇用が生まれるはずだ。

西ドイツ代表 : まさに新制ヨーロッパ経済の起爆剤になるな。ニヤり

スペイン代表 : セニョール、どうやって誘致するつもりだい?

西ドイツ代表 : それなら我々のヨーロッパというブランド力を最大限活かして、新たな投資を呼び込めばいい。

フランス代表 : ムッシュ・シュナイダー、それはどういうことだ? 説明してくれ。

西ドイツ代表 : 新しいルールを作ればいいだけだよ。『最も重要な工程を担った地域が原産地を名乗る権利を有する』という当たり前の原則をルール化すればいいのさ。

そして以下のような内容のルールを作った。




■ 原産地は『もっとも重要な工程を担った地域』が名乗るものとする。

■ 半導体は、複雑な工程なので二つのプロセスに分ける必要性がある。

■ 単純な後工程をASSEMBLEとし精密な前工程をDIFFUSIONとする。

■ よって原産地は、DIFFUSIONとなる。

■ 原産地をユーロとしたければウェーハプロセス工場を域内に設けなさい。

 

欧州経済共同体によって1989年2月に発行された法令「EEC No. 288/89」によって、ウェーハプロセス全体を“DIFFUSION”と定義され現代でも使われているのです。DIFFESED IN JAPANとは、ウェーハプロセスを担った国は、日本ですよ。と言っているのです。もう一つ分かったことがあります。私の最大の武器は「ロースかつ定食」だったということです。今回のコラムでこの推測がDIFFESE(普及)したら嬉しです。

下島元





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